実戦問答No.22


毎日が混沌なのがあたりまえと思えば〜アクションラーニングセッションとマネジメントの日常〜 
(2011.08.04)

以前、管理職昇進後の研修としてある会社でアクションラーニングを行った。終了際に、ひとりひとりに今回研修にて学んだことを簡単に述べてもらった時、ある受講者が、こう言った。

「昨日の午前中のぼくのセッションの時に、先生(横山)に言って頂いたことがずっと頭から離れません。」

「・・・・・」

「先生が、混迷に混迷を重ねた私の問題をお聞きになって、セッションの終わりぎわに『これからマネジャーになると、混沌、カオスが日常になるのでしょうから、そう簡単に問題が区切れてゆかないでしょうね、それはとりもなおさずあなたが本当の管理職らしくなったと言うことでしょう。』とおっしゃいましたが、私の今の心境にズバリでした。昨日今日のこの心境を、今後ずっと大切にしてゆきたいと思います。」

この人は、課長になる前から私は存じ上げている。ばりばりの営業マンと言う表現がほぼ当たっている人だった。と言って、ただ売って来るだけではなくて、顧客の要求に応えるために、技術部門や生産部門と、いつも精力的に折衝していた。と言うよりイニシアティブを取っていた。こう書くと、完全無欠のように思えてしまうが、もちろん弱点のない人間などいない。あまりに深く他部署の問題に漬かりこむため、効率的とは言いがたい。時々上司は渋い顔をしていた。要するに活動的だが、計画性は今一歩と言うことだ。

その彼が、今度は管理職昇進とほぼ同時に、重要拠点のアジア某国の現地合弁企業の副社長に任じられた。とたんに仕事が社内政治まみれになった。現地の社長、合弁先の株主との調整はもちろんやさしくはない。その上、日本側からの指示が時に全く現地の事情に符合しない、つまりはトンチンカンなこともある。そうした時には現地の経営陣との間に深い葛藤が生じる。その場合、現地の側の実情に基づく利害を自分が時には代弁しなければならない。日本の役員級の上司からは、「おまえはどっちの人間なのだ」と聞かれてしまう。他の現地企業との商売上の競争は、国内とは比較にならないくらい「えげつない」手法が横行する。つまり今回研修の彼の問題は、そうした政治まみれ、ガバナンスのぶつかり合い、商売上の泥沼にひたって「いったい自分はこの先どう言うポジショニングで仕事をしていったらよいのか」と言うのが彼の問題提示だった。
 

 

彼は言う。

「(課長になる前の)今までの自分はいくら売ってきたとか、どんな新規案件を取ってきたとか、それを垂直立ち上げできるよう、関係者を巻き込んでゆくとか、ともかく前を向いてがりがりやってさえすればよかった。もちろんそれがやさしかったとは言いませんが、がんばりさえすればなんとかなるところがあった。」

「・・・・・」

「ところが今度の任務はまるで違う。四方八方に気を着けていないといけない。それでいていつ区切りがつくと言うこともはっきりしない。」

「・・・・・」

「全く、あちこちの主要都市を飛び回って、見た目にはとても国際派ビジネスマンになったようですが、やっていることと言ったら、あまりにどろどろしている。」

「・・・・・」

「いくら打たれ強いのが自慢の私でも、少しまいっていたところでこの研修がめぐってきました。」

「それはよかったですね・・・・・。」

「それで、皆さんに私の問題を共有して頂いたことはとてもありがたく思いました。だからより一層その最後に、先生に言われた言葉が胸に響きました。」

「・・・・・」

「そうですね、これからは毎日が混沌なのがあたりまえと思えば何でもないですよね。」

どうやらこの人は、持ち味のストレス耐性が一層強くなってしまったようだ。

「そう思いましたか。」

「ええ、ありがとうございました。」

「そのうち、逆に混沌を好むようになるかも知れませんね。はじめからくっきりしているものは何かおかしい、あやしい、と。そうなったら本物の管理職ですね。」

「はい。」

「それでも梅雨の晴れ間のように、時々は青空がのぞくでしょう。その青空はいつもより一層深くあおあおと見えるはずです。」

「はあ・・・・・」

「時には区切りが着きますから祝杯をあげてください。そうしないと・・・・・まあ、あなたは大丈夫でしょうが、バーンアウトしてしまいます。」

「ええ、そうですね。」

彼は最後はいつもの明るい表情でにやっとした。この人のもうひとつの長所は、ぬきどころも心得ていて、良い意味で結構ちゃっかりしている。

アクションラーニングは混沌(カオス)に始まる。セッションでテーマとすべき問題が、整理されきってしまっていたら、もはや問題ではないのだ。自分でも本当にわからないから問題なのである。目を転じて私たちのマネジメントの日常は、変な表現だが、混沌要素が必ず一定割合で保持されるべきなのだろう。不透明で混沌とした状態の時にしか付加価値はつかない。逆に整理統制されきった状態だったら、そこにどうやって付加価値をつけるのだろうか。だから私の知る限り、すぐれたマネジャーは、たいてい混沌を好む。かの碩学ミンツバーグ教授は「すぐれたマネジャーはアナログを好む」と仰ったが、ほぼ同じ意味だと解釈させて頂いている。アクションラーニングは、そのような混沌が、素直にそのまま表出されるほどうまくゆく。今回がよい例だ。

次に彼と会うのはいつになるだろうか。その時は経験を積んで、もっともっと大きな人物になっていて欲しいものだ。本人のため、周囲のため、この会社のために。それをこの目で確かめるのが今から本当に楽しみである。 



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