実戦問答No.9


昇格はフレキシブルになりましたか~人事評価制度運用の質的メルクマール~

(2011.4.21)

成果主義と言う言葉が使われ出して、15年以上たった。成果主義が良いか悪いかと言う大上段の議論はさて置き、この十数年で何らかの人事制度改革を実施した企業はとても多い事だろう。そうした企業の方々が集まったセミナーなどでよく私が受講者に質問する点が、「昇格、場合により降格は、以前よりフレキシブルになりましたか」である。もっとはっきり言うときもある。「年功主義の頃より、力のある人は早く昇格していますか。」 
これは今のところ、とてもよいメルクマール(目印)だと思っている。

問いかけの背景
まず質問の意図から先に述べよう。俗に言う年功主義にはもちろん良い面も悪い面もあったのだが、現象としていちばんよくない事は以下だろう。まず①力を発揮している人材に、厳重な滞留年数その他の昇格要件をそのまま適用して、力がついてきても、重い任務、責任を与えないこと、②裏を返せばあまり力を発揮していなくても、年令通り昇格して処遇されている人が大勢いることであった。もうひとつが、③評価要素とフィードバックがあいまいだから、結局は上司の好き嫌いで評価が決まりがちなことであった。


③は、つまりは上司自身の能力人格の問題だから、成果を共通一次入試のように機械的に測らない限りは、成果主義でも何主義でも本質は同じである。よって①②に吸収されそうである。公正さを幾ら叫び、どれだけ精密壮麗な考課表を設計しても、結局評価と言うことは、管理職の人材と訓練によるのだと言うことは、机上論ではなく、私は20年この仕事をしてきて骨身に染みているつもりである。部下に重要な課題を与え、あるいは部下の意欲能力を引き出し使いこなす、強い人材活用の姿勢が、上司の側にほぼ平均していなければ、評価の公平も納得も何もないのだ(だからこそ、たえまないマネジメント教育、考課者訓練などが重要と信じているのだが・・・)。

残った①②も、長期的には表裏一体である。ただ、②の方が、ふつう手を着けにくい。だから変化を見るには①となる。そこで、冒頭の質問になるわけだ。
 
もちろん私は、現実の厳しさを知らないこざかしい才子がどんどん昇格すればいいなどと思っているわけではない。しかし、われわれ中高年戦士が思っている以上に、ふつうの人の1年を、2年分、3年分経験を積んでいる人も、時にはいるのである。人の2年分としたら、10年で20年分である。だからそういう人がもしいたら、32才で課長にしたっていいではないか。
 
それと、もうひとつは、いわゆる若手でなくても熟成タイプで、後半戦から力を発揮する人だって少なくない。そういう人を、もう「バスに乗り遅れ組」だとして放置していないだろうか。だから私は「若手抜擢、登用」とはやたらと言わないようにしている(部下にも時々注意する)。伊能忠敬が、人生の最終の自己実現たる日本地図作成に乗り出したのは、60才を過ぎてからではないか。今の感覚なら80才以上だろう。
 
こうした感覚で昇格を行えば、少なくとも昇格の確率は、これまで社員1000人で30人だったら、たとえば40人、50人と増えるはずである。降格も、復活戦大いにありの前提で、今までよりは増えてもよいのだが・・・・・。 

人件費管理と人材マネジメントの混同
さてセミナーなどで、そうご質問すると、どうもはっきしない反応なのである。つまりあまりそうはなっていないと言うことだ。
 
どうしてだろうか。いろいろな理由があるにしても、結局突き詰めれば人件費管理と、人材マネジメントが混同されている。と言うより、前者が優先されているからだと言うしかないようだ。
 
年功主義の悪い面を払拭するためには、理屈だけで考えるときは、誰でも「良い人材を早く見つけ、登用しよう」と言う考えに賛同する。ところが、実行となると、それとは別次元な点である、「年数だけで等級を上げてはいけない」と言う意識の方がたいていの会社で強くなる。そこで、滞留年数は別としても、昇格要件、審査などの厳格化が図られる。そちらに力点を置くなら、「それでは、これまで年数だけで上がった人は下げるのか、放っておくのか」を根本的に思案しないといけなかった。そうでないと年功主義の打破と言うより、むしろ評価管理強化、既得権益の尊重と言う印象になってしまうからである。
 
同じ会社である限り、ある年次から突然人材が変わると言うことは考えにくいから、内容が何であれ審査や試験を難しくすれば、合格者はふつう減るだろう。それを補うためには、昇格試験の上司推薦に依らない自由応募制などを併せて措置するとよいのかも知れない。が、なかなかそこまではと言う場合も多い。ならば、あくまで試験を厳しくしたのは意識改革のためにとどめ、合否は、実質旧基準にて決めればよさそうなものだ。従来の平均点が60点で、80点以上を合格としていたなら、今度の平均点は50点なので、70点以上を合格にすると言ったように、である。ここで、不思議と出てくるのが「人件費を抑えないといけない。だから・・・・・」と言うご印籠である。およそ会社勤めをしている人で、この言葉を出されたら、誰も反論はできない。
 
そうなら、人事制度改革、能力主義採用とは言わずに、はじめから人件費の節約が目的ですと言えばよかったのだ。時にそうした厳しい要件をかいくぐって、出る杭になって進み出てくる候補者も、最後には「まだもう少し様子を見た方がいいんじゃないの、業績もかんばしくないし」となりがちだ。だから、われはと思わん人は「出過ぎる杭になれ、そうすれば誰も打つ事はできない」と喝破したのは、堀場製作所 堀場雅夫氏である。それはわかるがちょっと現実的には・・・・・と言うところだ。
 
もっともここで初めて、自問自答する当事者もいる。「さて、私たちは何のために何をやろうとしていたのか」と。人件費管理と、人材マネジメントはもちろん不可分なものであり、どちらかが一方的に優先すると言うものでもないだろう。が、どちらかと言えば、人材マネジメントつまり人材の活性化こそは、経営、組織運営の本質であって、そのためにぎりぎりどれだけコストをかけられるか、と言うのが健全な思考の順序だと思う。もちろん各組織の考えで進めればよいことだが、おカネが大事なら経営理念に明確に「当社は利益が何より第一だ」と書いておいてもらった方がわかりやすい。これはこれで、心にもないビジョンを語るよりは大いに健全だ。 

「何のこっちゃい」・・・損得だけをいうなら
もっと細かな事を言うと、多くの会社で、昇給予算の中に、昇格昇給の分も合算統合しているのではないか。当然昇格時は、昇給幅が大きくなる。するとどうなるか。昇格する人が多くなると、他の社員全般の昇給予算が食われてしまう。だからもし所定の要件に達した人が多くとも、「やたらと昇格させるわけにはゆかないのですよ・・・・・。」
 
「何のこっちゃい」とはこういう場面のための関西弁ではないだろうか。帳尻とは合わせるためのものではなく、経営の状態を知るためのものであり、取るべき措置の唯一が帳尻合わせではないとは思う。
 
これをもう少し具体的に前後関係に照らすとどうなるか。まず少しくらい昇格する人が増えたからと言って経営が傾くとは思えないことだ。それに厳格化した試験をパスしているのだから、その分会社の収益力に貢献しているはずである。まあそう機械的ゆかないのはわかっている。それにしても、能力が伸びたと言う事を公に認め、励みにも動機にもしてもらうための人事制度ではないだろうか。
 
第一、損得だけを言うなら、もう少し正確に見たい。たいていの会社が、同一等級への長期滞留者への昇給抑制(場合により減給)は、随分と図ったのではないか。その措置により、未来永劫にわたり、会社がどれだけ得をしたかを考えてみて欲しい。どうしても数字が好きな人なら、それほど難しくないシミュレーションで計算できる。そのおおきな利得に比して、少しくらい昇格者を増やすことなど、それと較べたらまず物の数ではない。


降格の意味を考える
ここで併せて考えておかねばならない問題は、昇格後の能力、パフォーマンスの停滞が起こることである。人は誰しも安住の場を求めたいからだ。なるべくそうならないような予防措置は大切である。それにはいろいろある。降格は、そのひとつの重要手段である。ここまで降格の事はあまり言わなかったが、降格は、むしろ組織の活力維持のために重要なのである。要するに、あんまりぼんやりすると降格があると言う緊張感が大切なのだ。それと降格=脱落者と言うレッテルを張らないで、敗者復活戦の機会を与え、もう一回出直してみてよと言う健全なメッセージを伝えるのである。そこで、響きが悪いので、等級替えとか洗い替えとかいろんな表現がされるようになった。
 
ふつう、降格はかわいそうだと言う。確かにその時点だけ取ればそうだ。しかしもっとかわいそうな、忘れてはいけない面が2つある。第一に、かわいそうだと言って放置して、ある日経営状態が悪くなると、まっさきにリストラの対象になるのは、そうした方々である。寝耳に水であろう。そうなったらもっとかわいそうだ。降格は、むしろ雇用の維持のためだと言われるのはこのゆえんである。
 
もうひとつは、例によって人件費の配分論だが、そうして活力をなくした方が、上位等級にいすわれば、その分だけ勢いを持って伸びてきた方々の昇格の割り当てが減る。伸び盛りなのに、ペイも責任も向上しないのは誠につらいことだ。こっちをかわいそうだと言う声があまり聞こえて来ないのはどうしてなのだろうか。こうしたことを続けていると、前途有為な人ほど離職してしまうと言う最悪の循環を招きかねない。  さて、いろいろ述べたが、以上の論旨と似たようなことは、拙著「ポスト成果主義の人づくり、組織づくり」に書いてある。ある時、招かれたある会社の人事担当役員に「(こうしたくだりを)読んだら目からうろこがおりました」と仰って頂いた。「私たちが考えるのは、経費管理でなくて、どう社員に活き活きと働いてもらうかなのですよね。」
 
普段は話の長い私も「いやそうなのですよ・・・・・」と少し照れながら短く奉答させて頂いた。

 


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