月刊人材マネジメント連載記事その6


「横山太郎が語る現場のアクションラーニング」その6

   〜アクションラーニングの成果を検証する〜 (2011.07.12)

第6回 アクションラーニングの成果を検証する

 

アクションラーニングは速効性が高いことを、第3回のこの稿にて述べた。普通の研修や能力開発に比して、まず何よりそれが検証された成果である。そのような成果は、真に訓練され、組織内部の実戦心理学がわかった適切なコーチに依らなければ得られないことを、第4回の稿で論じた。

 

アクションラーニングにより、眼前の危機を克服すると言うのは、むしろいちばん普通の成果である。だがそれも、そうなるような「場づくり」が前提であることを第2回の稿に指摘した。前回(第5回)は、つくりあげた場にあって、供される質問が適切であれば、一層うまくゆくと述べた。こうした際、あまり時間のない時には、まず何より、本人自身の問題解決を通した行動変容に焦点が当てられるべきで、時間等の資源を十分得られている時には、組織風土変革だとかマネジメントチームビルディングに十分挑戦できると第1回で述べた。

 

従って、最終回の今回の主眼は、以上のような成果の定着と言う側面である。

 

危機を迎えた時ですら、人は現実をまっすぐ見ようとしない性癖を有していることは繰り返し述べてきた。それを仲間の共有、支援の上に立ってしっかりと見つめなおし、真因、本質に斬り込んでゆくことができれば、問題は解決し、人は成長する。公平に言って、ここまで、つまり仮に1回、2回の単発の研修だとしても、これは他の教育手法にはない大きな成果であることをまずご理解頂きたく思う。ここでは一層欲張った成果を述べようとしている。

 

繰り返し刷り込むことの重要性

 

ピンチを苦しんで乗り切った時、そのプロセスにおける学びを、私たちは明確に自分の肝に銘じているだろうか。

 

そうした行動をごく自然に定着させている真の自主独行の人材になれば、もはや教育などは必要ないので、ひたすら成果業績を挙げ続けて周囲の人々を幸せにすればよい。しかし、私もそうだが、たいていの人は、喉元過ぎれば熱さを忘れると言うたとえ通り、危機を乗り切るとまるでそれがなかったかのように忘れる。そればかりか、いったん高められた自分の行動の質が、また元に戻ってしまうと言うことも起きる。これはとてももったいない。ではどうすればいいか。

 

きわめて当たり前なことだが、繰り返し、そのいったん現れた良質な行動パターンを自分に刷り込み、もはや動かしがたいものとするしかない。そこまでゆくと、会社としては個々人とせめて上司の努力任せにするしかない面もある。が、望ましい行動の定着に向けて、会社が多少は支援できるとなおよい。ただ、ここに組織人教育の現状のひとつの根本的な問題があると思う。繰り返しと言うことをとてもむだなことだとして忌み嫌うのである。そして次々と目先を変えて、様々なカタカナ言葉のスキル習得にトライすることが、あたかもメニュー豊富でよいことのように捉えられる。その中には、はっきり言って首をかしげるような内容も少なくない。

 

その結果、食堂のメニューを批評するように、このコースは面白い、あのセミナーはつまらない、さらにはあそこの研修施設は立派だ、食事がおいしいと言った受講者アンケートを取って研修の成果を確認しようとする。こうした状況を、かのコーチングの神様、ゴールドスミスは、諧謔をたっぷり込めてこう評する。「私たちコンサルタントや、研修施設の従業員が一層自分を高められるたくさんのフィードバックをどうも有り難う。ところで、受講者の皆さん、あなた達は自分自身についてはいったい何を学んだのでしょうか。」

 

良質な行動を刷り込むには繰り返すしかないのだが、アクションラーニングはその点が大変都合よくできている。問題と言うものは、行動の質が高まろうと変わるまいと、いつも起きるからである。問題にどう取り組むかを事前事後に深く考えることこそは、その人の能力開発を定期実施しているようなものだ。アクションラーニングは、そこにぴたりと整合して乗ることができる。ある人が、1度目のアクションラーニングにて、仲間の共有、支援により切実な問題を克服したとしよう。数カ月して、同じメンバーでもう一度フォローアップ研修を行い、その人が、その時点の新しい中身の違う問題を提示したとする。本人は、前回よりもっとひどい問題で、本当にまいったよと訴える。

 

他の研修と異なるのは、ここまでのプロセス自体を、1度目の研修とほぼ同じくらい新鮮な意識で取り組めると言うことだ。なぜなら、問われている本質は同じであるが、論じる事例の内容が全く異なり、かつ自分が当事者であるからである。他の研修では、全く同じ形式で繰り返して同じくらい新鮮になると言うことはまずあり得ない。たとえケーススタディを変えても、そうはならない。それほど自己固有の問題は、ここでもインパクトが強いのである。

 

問われている本質とは言うまでもなく自分の行動がどう変わったかである。見事鮮やかに変わっていればよい。もちろんそういう人もいる。しかし、そうでない場合もある。セッションを1,2時間行ったあと、他のメンバーが「君、どうも問題の本質は前回と似ているようだね。」と言うときもある。どう似ているのか。要するに、無意識に自分の弱点が作用していたり、見たくない現実をしっかり見すえていないと言った、行動の質のことである。かんじんなことは、言われた方も、前回よりはその自覚がずっと速くなる。「私も今しゃべりながらそれに気づきましたよ」などと言う人もいる。そういう意味では正確に言えば変わっていないのではなく、変化途上にあるのである。こう言うことを幾度か繰り返してついに人から言われなくても、問題解決に取り組む前に気づく自律人材となるのである。

 

そうして、一人また一人、自律の気配を濃くしてゆく。やがてメンバーのおおかたが、ごく自然に「もう先生(コーチ)に来てもらわなくてだいじょうぶだ」と感じる瞬間が来る。私はその時その組織を辞去する。また、時間を置いて彼らにお会いして、自分で敷いた軌道の上を大きく成長しているご様子を見るほどの喜びはない。

 

現場への深い関与と情熱が大事

 

コーチの重要性を述べた第3回の原稿で引用した、デービッド・ケーシーは、行動変容の真の定着には1年半から2年かかると言っている。そして彼は言う。「重要な社員達がそのように変化するために、コンサルタントを10日や20日呼ぶコストなど物の数ではない。」仮に20度呼んだとしても、幹部候補生の社員の幾人もが、向後10年20年行動を自律的に変えられるようになれば、その経済的効果は、まず数百倍はあるだろう。但しその10日間なり20日間を、新奇のカタカナスキルを身につけるためではなく、意味のない形式的な報告書づくりに奔命せず、自分自身と仲間の行動を深くふり返ることにどっぷり漬かって用いたらの話である。

 

だから私は、何の条件もないなら、最低半年、できれば1年以上、毎月同じメンバーでやってみましょうと申し上げるようにしている。そのための人選が重要である事は言うまでもない。それといくら守秘義務でも、本当に1対1で向き合わなければ出て来ない話はもちろんあるので、チーム形成のために必要な個人面談も補完的に行う。時間はすぐに過ぎてゆく(しかし、コーチングのように1対1だけを続けていても、当然効果は局限される)。こうして、個人の行動変容が輪となって相乗し、最後には風土改革、マネジメントチームビルディングにつながる。

 

そうは言っても機会均等を重視しなければならない大企業の教育担当者としては、以上のようには進められないことも少なくない。この場合は、階層研修として実施し、それでも初回より時間を短くしても1度はフォローアップをしましょうと申し上げてなるべく計2度は集まるようにしてもらっている。もう一度言うが、これでも、一般の研修よりははるかに速効性が高いのである。

 

この場合、その上をさらに望むならどうすればいいのだろうか。理想的には、上記のような繰り返しの刷り込みを、所属部署にビルトインすることである。しかし、こうした方法は、往々にして本社向けのもっともらしい報告書を書く事が目的化してしまう。やはり教育担当者自身が深く関与して、受講者のその後の行動を確認し、励まし、支援することがいちばんである。この役割を社内コーチと呼んでもよいだろう。同じメンバーで再度集まるのは難しいかもしれない。だから、一人一人を追いかけるのだ。全員追いかけるのが無理なら何らかの基準で選べば良い。

 

そうした熱意をお持ちの教育担当者であれば、逆に私は、最初からアクションラーニング研修のセッションに加わって頂くようお勧めしている。もちろん守秘義務等の原則は同様に守って頂く。他の受講者もそうした情熱をお持ちの教育担当者なら、彼をメンバーとして受け入れ、通常のアクションラーニングと少しも変わりなくホンネを語るものである。

 

私はこれからの教育担当者は書類上の企画や効果計測はほどほどにして、こうした現場にもっと出てくるとよいと思っている。現場以外に価値が産まれる場所がないのは、何も製造や営業、開発だけの話ではない。教育も全く同じである。人の成長にじかに関われると言うことは、デスクワークよりも、ずっと心が揺すぶられることだろう。



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