昇進昇格の評価と「真実の瞬間」に基づく実戦力の評価

先般あるクライアントで質問された。昇進昇格試験の論文が評価しにくくて困っているとのことである。いわば人の一生がかかった場面でそれは困ったので様子を聞いてみたが、なるほどそうかと思った。事前に時間無制限で関係者の知恵を絞りつくしたワープロ作成の図表入り論文を評価しているとのこと。それだと、こうした仕事を何十年もやっている私にもよくわからない。

少し前だが「真実の瞬間」と言う経営書があって読まれた方も少なくないと思う。評価はその各人にとっての「真実の瞬間」をいくつか具体的に捉えなければならない。そうでないことをどれだけ多く積み上げても結局よくわからない。かんじんかなめの節目の判断決断行動をどのように行ったかの瞬間を捉えれば、それでその人のすべてがわかるとは言わないが、かなりの程度が評価できる。しかし、365日その人と昼食をともにして気軽な雑談をいくらしたところで、評価としてはわからない。ご自分がリスクを取って行動したことのない想念概念を、きれいな図表入りで論じられた文書は、極端に言うとそれと同じくらい人材の評価の上では、素材になりにくい。

実際のラインの上司は、自分の部下のふだんの人事考課をする際、「真実の瞬間」は、ありあまるほどを見ている。だからこの場合は、どれだけ「公平」な判断(重要度の順位づけ、取捨選択)を行い、当の部下に「納得」させるかと言う問題になる。しかし、人事部や会社がこうした場面で評価を行うには、そもそも手元に確かな感触を伴う原始情報たる「真実の瞬間」がない。それをどう集めるかのためにさまざまなアセスメントの手法が発達した。そんな面倒な事を考えるくらいなら、昇進昇格の時には部門の評価の通りすればいいかと言うと、こういう節目の評価は、いろいろな意味で利害当事者たる部門だけでなく、会社側も関与すべきであることは今の時代では当然であろう。

論文試験をアセスメントに使うなら、この例ではっきりしているのは、無制限自由の準備をして頂いた内容には、まず「真実の瞬間」は現れない。学校のようであっても、なるべく同時に時間を決めて一気に書いていただく必要がある。そういう時の文脈には虚飾のない本人の判断、決断、行動が現れるからである。

しかし実際この方法は主流とは言えないかもしれない。これだと、ストレスがかかった状態で手書きされたものだから、おえらがたにとって読みやすいものではないからだろう。さてここが思案のしどころだが、人事部門でこうした面の評価を担当する方が、そうしたおえらがた同じことを言っていてはいけないと思うのである。見やすい、聞きやすい、読みやすいと言う事と、評価の公平性はあまり関係ない。このことは実戦問答5に随分と書いた。「真実の瞬間」は、そうした受け身な姿勢ではまず手に入らない情報である。

こちらの感覚器を十分に鍛えていないのに、ふだんよく知らない人間を評価しようと言うのは無理と言うより、困った話である。そして慣れてしまえばきれいに清書された、逆にたいくつきわまりない総花的な文書を読まされるより、そうした原始情報の方が、この目的のためにははるかに読み取りやすくなるものなのである。

これは面接の場合も同じで、昇格したら何をやりたいかなどと聞いても、能力評価としてはあまりわからない。過去に取った行動の動機、方法、結果、それをどう思ったかを徹底的に、つまり誠実な態度で根掘り葉掘り聞かなければ、その人の実戦力は決してわからないものだ。

この場合、私が評価する対象として想定しているのは、知識の多寡、パワーポイントの表現力ではない。どこまでいっても実戦力である。国営企業でもない限り、会社の中で実戦力以外の何の能力を評価するのだろうか。そして昇進昇格の評価だから、当然ながら誰もが満足する結果などというものはあり得ない。だから誰もが最低限、「ああ、あの人が上がるのならしかたない」と言う受け止め方をされる必要がある。今日、それは実戦力以外にはないのである。

 

コンピテンシー面接の活用

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