実戦問答No.30


人事考課における全社的絶対考課基準の効用…部門間甘辛(あまから)調整など                  
                           
  (2012.10.20)

全社的絶対的考課基準または評価の相場観のことを前回述べた。これを反復的な人事考課者教育を通じてしっかり構築することにより、私たちは真に客観的で公平な人事考課を行うことができる。特に一次考課者が、自信を持って妥当な判断と評価をくだすことは、組織の活性化に必須不可欠な要件である。従って、全一次考課者が、良識に照らして適切に評価を行うスキルと基準を身につけていることが決定的に重要である。

 

これがどれほど重要かは、人事担当者の実務のいろいろな面に反映される様子を述べた方がもっとわかりやすいかもしれない。今回はその代表的な例を幾つか挿話風に述べておきたい。

 

 

■評価の部門間甘辛調整

 

まず、部門間の公平さ、ひらたく言えば部門間の評価の甘辛(あまから)の調整に対して大変有効である。

 

この甘辛調整は、人事担当者にとって悩ましい問題のひとつである。人事側、会社側が、これをきれいに調整するモノサシは開発することは実際は不可能である。と言って言われるがままにしていたら、部門側は、どんどん甘い点数をつけたままにしておくに違いない。これは別段人間性の問題ではない。上司であれば、自分の部下の利益になることを少しでも行いたいと言うのは、むしろマネジメントに携わる者として自然な動機の発露である。管理職に対し、「なるべく部下の悪い点を見つけて減点しなさい」とはどんな会社でも決して言わないだろう。

 

だから調整が必要になる。

 

しかし、モノサシのない中での調整は、消耗戦のようなものだから、しだいにうんざりしてくるかもしれない。するとしだいに機械的になってくる。どの部門も定められたABCなどの評語の割合は、びた一文狂わないよう、ぴったり合わせてくださいと言うような方法である。

 

これで2度と手を着けなくてよければ人事担当者としてはこんなに楽なことはない。しかし、これも長続きはしない。今度は、等級ごとに被評価者の母数の少ない部署から言われる。話をわかりやすくしよう。部下が2人しかいない部署で、1人がすばらしく優秀だからS評価をつけたいとする。とすると平均をBにするよう機械的に帳尻を合わせるためにはもう一人をDにしなければならない。そこの部署の部長や課長は、人事担当者に言うだろう。

 

「いくらなんでもそれは困る。」

 

「いえいえ、ルールですから。」

 

「そんなルール守っていたら社員がやる気をなくす。柔軟に考えて欲しい。」

 

「おたくの部署だけ例外と言うわけには・・・・ところでもうひとりの方のできばえはどうなのですか。」

 

「こっちの人はまったく普通かちょっとましというところ。だから絶対にBにはしないと説明がつかない。」

 

「そうはおっしゃっても・・・・・」

 

「じゃあ、あいつがSを取ったから割を食ったおまえはDになったのだと言えばいいのかね。」

 

「いえ、それは困ります。」

 

「じゃあ、いいだろう、こういう時は実情に応じて、と言うことで。」

 

「しかし・・・・・ではどうですか、たとえばもう少しゆるめてAとCにしては。」

 

「それではどっちからも不満が出てしまう。」

 

「いや、困りましたね・・・それにしてもSは高すぎるのではありませんか。」

 

「いや、この人は評価に不満を持てば同業他社に転職してしまうかもしれず、そうなったら、当社のシェアや利益を奪う商品開発ができる人だよ。そうなってもいいのかね。」「そうならないようにするのが上司のお役割かと・・・・・」

 

「だから評価の比率の調整を認めてくれとお願いしているんだ。きれいごとで優秀な社員を引きとめてゆくことはできないよ。」

 

「困りましたね。この件は、そちらの部門の役員はご承知ですか・・・・・」

誰が悪いわけでもないのに本当に困ったものである。

 

先に言うと、根本的解決を図る道があるとしたら、もしもいつもSを取るような社員が、その等級にずっと滞留しているのが何よりおかしい。それが人事制度や昇格考課の運用が硬直しているせいだとしたら、そちらをなおすと言う根本を忘れてこうした現象にばかり追われ続けるのは生産的でない。

 

まあそれは別論として、上記のような問題が、被評価者母数の少ない部署から次々持ち込まれるから、せっかくの効率的な機械的配分もすぐに崩れる。と言うよりもともとそのような事務効率だけを優先した機械的配分を永続させるのは、当然ながら人材マネジメントの原理に反する。限度程度はあるにしても、個々別々に調整をするのは、むしろ人事部門の本来の役割だろう。と言いながら、上述のようにそれがどれほど疲労感を伴う仕事かはわかって言っているつもりだが。

 

 

■比率を守らないのは不公平であると言われたら

 

少しは調整をするようになると、今度は人数の多い部門や労働組合が文句を言いに来るかもしれない。被評価者母数の多い部署はこう言うだろう。

 

「私たちの部署は、ABCの比率をきちんと守らせているのに、そうでない部署があるのは不公平だ。」

 

実際人数が多いのはたいてい製造や販売などで、少ないのはその他の管理間接部門、研究開発部門などである。部署の数だけで言えば後者のほうが多く、つまり比率を守らなくてよい?部門の方が多くなってしまうのがふつうである。だが、人事担当者としては、母数が多い部門くらい比率を守ってくれないと運用が完全に崩れるから、そこは譲れない。

 

しかし、人事の担当者が不公平だと言われて、特に労働組合に言われてはあとには引けない。どうすればいいのか。また機械的配分比率に戻すのか。それは永久に同じ問題を循環させるだけになる。

 

ここで、もし、「実質的な公平は十分に図られていますから問題ありません。」と言えればいちばんよいわけである。

 

「実質的公平」と何か。それが前稿から言い続けている「全社的絶対考課基準」すなわち「相場観」である。人事担当者としてはこう言えばいい。

 

「当社では人事考課者全員が、全社的な絶対考課基準に照らして、部下の評価をくだす能力を持っています。そのためにここ数年だけを取っても、考課者訓練を繰り返し行って来ました。会社としてはそうしたマネジャーの方々を基本的には信任して人事考課を行って頂いています。」

 

これでだいたいはおさまるものだ。

 

相手がマネジャーならこう続ける。

 

「あなたもそうした討議に参加して十分にそのような基準が共有されたことはご理解頂いていると思います。」

 

これは、研修が前稿で述べたように活気のあるものであった場合にはとりわけ有効である。組合の幹部が、そうした研修にオブザーバー参加することもあるから、その場合には、これは同じように言えばよい。最後にはこう言えばいい。

 

「もちろん、明らかにおかしいと思われるものが生じれば、こちら(人事部門)でもチェックし、必要によりご再考をお願いします。ですから、いちばん人数の多いそちら様は、基本的には原則比率を守って頂きたいのです。」

 

こうした、部門間の甘辛の論議において、相手を納得させるためには、適切なケーススタディに基づく考課者研修など、全社的絶対考課基準を構築するための努力が日ごろから図られていなければ、説得力を欠くことは明らかである。

 

 

■それでも不公平な上司がいると言われたら

 

組合幹部だとさらに言うかもしれない。

 

「考課訓練をやっているのは結構だけれども、資質的にどうにも不公平な評価から抜け切れない上司もいる。だから、せめて比率くらいは全部門一律で運用してもらわないと困る。」

 

こういう問答の成り行きは、人事制度運用の成否を分ける。最悪なパターンはこういう要請を鵜呑みにして運用規制強化を図ることである。それだと大多数のまともに取り組んでいる管理職はたまらない。実際このような話は、立場上言っているだけで、具体的事実を踏まえない観念的な主張または風聞に過ぎないことも少なくない。従ってまずはこう言うべきである。

 

「それは、それは。会社が任命した管理職にこれだけ教育を行っているのに、そんなに問題のある者がいるとは知りませんでした。まずは徹底的に個別指導しますから、その者の名と、具体的にどれほど不公平でひどいのか、ご教示願えませんか。」

 

「いや、そこまでは・・・・・」

 

と言うのが私の経験上たいていの場合である。実体のない煙に驚かされて制度をしょっちゅういじっていたら、社員のほうはたまらない。

 

たまには、具体的に告げられることもあるだろう。そこで初めて問題になるのだが、それは基本的に個々人のマネジャーとしての資質の問題である。そういう人がぞろぞろと、管理職のうち1割も2割も指摘されたなどと言うことは聞いたことがない。だから上述セリフは別段相手を黙らせるために言っているのではなくて本当にそう思うから迫力を生じるので、具体名と具体的事実が出てきたら、言葉通り事実を確認の上、必要なら本当に徹底的に個別指導するのである。それでも治らないなら、専門職に切り換わってもらうなどするしかないだろう。繰り返すがそこまでしなければならない確率はよほど低い。


なお付け加えると、最初に「特例扱い」を求めてきた部下が2人しかいない部署との会話も一層実り深いものとなる。もし、日常から全社的絶対考課基準の形成と言う意味での人事考課者育成に努力が払われていたら、次のように質問できる。


「さて、このS評価がついた方は、先般の人事考課研修のケーススタディの主人公と同等以上の貢献をしているのですね。」


こういう臨場感のある質問には正直な反応が得られる。


言下に「その通り」と言うこたえが帰ってきたら、その評価はまずは信頼に値する。「・・・いや・・・いくらなんでもあそこまでは・・・・」と言うような反応だったら、「ではどの程度ですか。」「その程度なら、今回はAにとどめておいてよいのではありませんか。」と話の間合いが詰まる。

 

■相対評価と全社的絶対考課基準


ところで、絶対評価と相対評価のいずれにすべきかと昔から論議が尽きない。が、この場面のように、現実的に昇給賞与の額まで決めなければならない時には、最終的な評語(ABC)の配分比率は、多くの企業では現時点では現実論としては原則として維持するしかしかたないだろう(つまり相対評価)。全社的絶対考課基準とは、このできばえなら会社じゅうどこへいってもAで通用する、せいぜいBだと言う客観的相場観をつくることだから、それに基づき、最後に相対的に序列づけることとは少しも矛盾しないのである。


「原則」が維持だから、ここまで述べたように、うまくゆかないところでは個々の調整が生じることはやむを得ない。と言うより、その方が、人材マネジメントの原理にかなっているのは、上述の会話から明らかだろう。私の考えは、相対序列づけが止むをえないと言ったので、本質的に重要なのは全社的「絶対考課」基準だから、全部署が必ずきれいに割合通りになる必要はないのである。配分原資はむろん有限だが、それを社員の活性化に最大限に活用するための調整活動は、繰り返すが人事担当者の本来の役割なのだ。



■部門内調整にも有効


最初に人事担当者にとってのメリットを挙げたほうがわかりよいと思ってこうした例を述べてきた。「部門間」の調整も難しいが「部門内」の調整がふつうは先にある。たとえば営業部で、各営業課の評価の甘辛を調整し、部門として、社員の評価序列を決定する場面である。こちらは難しいと言うより、被考課者との距離がぐっと近くなるから、ぐっとなまなましく、日ごろの情念がぶつかりあう。ひらたく言えば、一層、無意識の不公平が起きやすい。こうした時の、全社的絶対考課基準の効用も、これまで述べてきたこととほぼ同じである。


2次考課者の部長は、自分がよく知らない一般社員に高い評価がついていると、部下の1次考課者の課長にこう聞くかもしれない。


「君、この人そんなにいいのかい。」


これに対し「ええ、いいのです」ではあまり説得力はないだろう。と言って部長もあまりよく知らないのだから、日常の細かいことを説明してもたいして聞いてはいないかも知れない。「この間の研修のケーススタディの人と同等か、それ以上やっていますよ。」と言えれば簡潔ながらだいぶ重みが増すと言うものだ。こうした積み重ねの結果、2次考課者以上の方々が1次考課者のつけた評価を従来以上に尊重し、もしそれを変更しなければならない必要性を感じたとしても、熟慮をもって1次評価者と意思疎通するようになれば、組織の活性度は一層高まるのである。

  

 



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