実戦問答No.2


どうしてぼくにはこのような鮮やかな変化が起きないのですか

   ~アクションラーニングの機縁~ (2010.12.08)

以前に、あるクライアントで、再度のアクションラーニングを行った。休憩中、その日に既に自分の問題のセッションを終えたある若手マネジャーに話しかけられた。

「先生、これ何度も読んでみましたよ。」

有り難いことに拙著「リーダーの質問術17手」を精読頂いたようである。それは有り難かったのだが、次の彼の質問には、私は飲みかけのお茶にむせてしまった。

「でも、先生、どうしてぼくにはこのような鮮やかな変化が起きないのですか。」

彼は真剣なまなざしである。同時に自分の力に十分自信が持てない気弱さも表情に少し現れていた。拙著には、アクションラーニングをきっかけに行動を変えていった人のストーリーが何例か詳しく載せてある。それにしてもこの問いかけには周囲にいた同僚達も大笑いだった。

「先生が次の本を書く時、『最も成長に手間がかかった生徒』、として書いてもらえよ。」

などと言う人もいる。

このからりとした空気をどうか味わって頂きたい。アクションラーニングが習熟するとこうした空気が醸成されるのだ。めいめいの内面の殻を破ったこうした空気が、問題解決を、リーダーシップ能力向上を推進するのだ。

さてこの人は俗に言う「ハートのいいやつ」で周囲から慕われていることもまたこの様子でよくわかる。逆に人の痛みがわかり過ぎて、ついかんじんな時に優柔不断になる。この手の人は確かに鮮やかな変化と言うより、経験を積み時間をかけて変わることが多い。が、その代わり円熟味も深くなるものだ。と言って、今を悩んでいる。

「いやいや・・・・・」

私は弱りながら話を続けた。

「人の成長には機縁と速度がありますから・・・・・」

「何ですか、そのキエンって。」

「つまり、私はいつも言うのですが、人の成長は、緩い坂道をじょじょに登って行くようなものではなく、ある節目では、ぽんと跳ね上がるし、そのあとはまたしばらく平行線が続いたりと、そういう意味です。」

「・・・・・その節目が、私にはいつ訪れるのですか。」

「それは・・・・・」

明日かもしれないし、1年後かもしれない。だからと言って、今から変わろうと思って行動しなければ、1年が3年にも5年にもなってしまうかも知れない。そう言う意味のことを伝えた。

「そうですか。つまり、もう少ししんぼうですね。」

「そう、今の続けていれば、必ず、ああ自分は変わったのだ、成長したのだと実感する瞬間が来ますから。」

既に彼の日常の努力ぶりは知っている。

「先生ね、アクションラーニングセッションをやったあとは、とても気持ちがすっきりして、さあ自分は変わったぞと思うのです。が、戻って忙しさにまみれるとまたいつも自分に戻ってしまうのです。」

「・・・・・」

「ついついみんなの言うことを聞き過ぎてしまい、気がついたら自分の元の考えがぼやけてしまうのですよ。」

それはこの人の良い面でもあるのだから難しい。そうした態度で、しっかり事業運営のインフラを支え、部下が仕事をしやすい環境になるよういつも懸命に努力する。が、時にその状況判断が甘くなったことを本人も反省する。組織として必要な利害得失を貫徹する姿勢が少しだけ薄くなるのだ。それは部下から見たときには人間的魅力でもあるのだが。この弱点は、さきほどの正規のアクションラーニングセッションの中でも随分他のメンバーから、本当に支援的に質問され指摘された。だから今はそれを繰り返すこともない。

「そうは言っても、今日聞きましたが、前回の問題は解決したのでしょう。」

「そう、でもずいぶん上司と部下に助けてもらいました。」

「助けてもらうよう働きかけたのはあなたではありませんか。」

「そうです。」

「今までなら?」

アクションラーニングを経ていなかったら、の意だ。

「抱え込んでもっと遅くなっていたでしょう。」

「そう言うのは、あなた自身が変わったと言うのではありませんか。」

「そうですか、そんなものですかね。」

「だから先はまだ長いとしたって、まずいったんは自分のことを自分で認めてあげないと。」

「まだ実感が薄いので・・・・・ぼくはもっとはっきり変わりたいのですよ・・・・・。」

「そうですか・・・・・」

私にもそう言う時期があったから、よくわかる。ここは彼の気持ちを受け止めるしかない。

「・・・・・」

互いにしばしの沈黙の後、彼は、最後にはまたほがらかないつもの笑顔に戻った。何十人も部下を使っている時の彼の本来の表情だ。

「でも先生、何でしたっけ?」

「機縁。」

「そう、それが来るまで待てばいいのですね。」

「そうです。できればあまりそういう結果ばかりを意識せずに、皆さんの質問をいつも念頭に置いて目前の問題に当たりながら・・・・・」

「わかっていますよ。また先生、話し相手になってください。」

「ええ、もちろん。」

ほんの数分の会話であった。彼の目が、きらきらとした輝きを取り戻していた。私はこういう目を見たいからこの仕事をしていると言っても過言ではない。まもなく次のセッションが始まる。

「このあとは、ほかの人のために、スルドイ質問でまた場を盛り上げてくださいよ。」

「ええ、任せてください。」

アクションラーニングは素晴らしい活動である。その基本的なパターンは、幾点かの拙著に述べた。そんな中で、こうした向上心の強い読者兼受講者に、少々「いや参ったね」と言う質問を受けてやり取りするのもまた、私にとって替えがたい余祿を頂戴していると感じている。もちろん彼のお役に立っている限り。
 

 

さて彼にはその後「機縁」が訪れたのか、近いうちに確かめてみたい。



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