実戦問答No.21


「本当の話」と「お茶飲み話」~アクションラーニングセッションの場づくりと迷い道~ 
(2011.07.23)

アクションラーニングの導入や運営に関し、その場づくりの進め方において他の手法とどう違うのかよくご質問を受ける。「『○○カフェ』」、『△△ミーティング』と較べてアクションラーニングは、どんな場づくりになるのでしょうか」と。そうしたことは、実を言うとあまり問題ではない。アクションラーニングも含め、それらの運営原理は、たいてい自由、信頼(守秘義務)、支援、対等などと、まず同じだろう。小異を言い立てるほどの徒労はない。私は「アクションラーニング」と言っているだけで、「○○カフェ」でも何でも、そうした原理を体得した経験豊かなコーチが実践すれば同じ結果になるだろう。

どうもそのようなご質問を頂く例の多くは、何らかの手法を試したがうまくゆかなかったと言う場合である。聞くと、その「場」において、私がセミナー等で話している「本当の話」が出て来ない、と言うことが多い。「本当の話」と言うのは、「自分の責任で解決しなければならない現実に差し迫った問題を、ホンネで、かつ支援的に話し合っているか」と言う意味である。

質問はたいていこう続く。「どうしたら『本当の話』が出てくるような場になるのでしょうか。」と。受講者が「本当の話」をしてくれないと言うのは、つまりは受講者が主催者を信頼していないと言うことである。「ここでホンネを語ってあとでどんな災いがあるかわかったものではない」「この場でホンネを出したところで何も解決するわけでもない。むだだ」と言った思いがおおかたである。

それがわかっているのだから、解決するためには、信頼して欲しいほうから、つまり主催者から受講者に歩み寄って強く働きかけるしかない。その働きかけ、説得は、うまい手法を選べばしないで済むと言うことは、絶対にないのだ。ほとんどはそこに問題がある。そうした働きかけは、上記原理を暗記しさえすれば、誰でもすぐにできると言うわけにはゆかない。コーチ役に深い経験または強いサーバントリーダーシップのいずれかが必要になるからだ。その委細は拙著「アクションラーニング実戦術」に述べたからここでは詳述を避ける。ひとことだけ言えば、私はいつも、「ここは絶対安全な場なので、せっかく忙しい皆さんが集まったのだから、ぜひ本当の問題を語って欲しい」と強く熱意を込めて心から訴えているから、受講者が「本当の話」をしてくれるのだと思っている。

ここではそのように真正面から取り組まず、よけいに迷い道に入ってしまうケースを他山の石として述べて置きたい。

それは、「本当の話」が出てこないと言うことで、「話しやすい話」に切り換えてしまうことだ。経験の不足したコーチ、ファシリテーターが陥りやすい迷路である。「話しやすい話」とはつまりは「お茶飲み話」であり、もっとはっきり言えば「むだ話」である。せっぱつまった日常の中に少しくらいほっと一息の「むだ話」があってもよいとは思う。が、何も研修会に人を集めてそんなことをする必要はないだろう。

どう言うことか言うと、たとえば、「実はこういう(特定の)部下がいて、どうにも私の言うことを聞いてくれないので本当に困っている。原因はいろいろ考えられるが、私はどうしたらよいのだろうか。」と言うのが「本当の話」である。「皆さん、部下を指導育成するにはどうしていったらよいのでしょうか。めいめい思ったことを言ってもらいまとめてみましょう。」と言うのが「お茶飲み話」だ。つまりは「一般論」でもある。違う例を言うなら、たとえば顧客の厳しい要求に苦しむベテラン営業マンが、「そうしたことを当社の技術部門に相談してもなかなか取り合ってもらえない。このまま時間が過ぎてゆくと顧客との関係がたいへん悪化してしまうが、私はそれを避けるためにどうしたらよいのだろうか」と言うのは「本当の話」である。が、「当社は部門間の協力態勢が十分でない。どうしたら互いに協力し合えるのか」と言うのは、この発言の主が社長だったら「本当の話」だが、営業職だったらやはり「お茶飲み話」である。

「お茶飲み話」は研修としては時間の空費に近い。が、もっと困るのは、それがやがて「つくりごとの話」つまりは「ウソの話」になってしまうことである。「部下を指導育成するにはどうしたらよいですか」と「一般論」を聞かれたら、誰だって理想的な、絵に描いたようなことが言えるだろう。本当の問題は、それを「本当」に実践できているかである。誰だって百パーセント理想通り実践できるわけがないのだから、そこに必ず固有の具体的問題、困り事があるのだ。それを話してもらわなければ絶対に「本当の話」にはならないのだ。

絵に描いたようなこと(ふつうの日本語では「きれいごと」と言うのだろう)をしきりに意見交換したら、とても意識改革になり見違えて行動も変わったと言う話は聞いたことがない。そういうことをいくら繰り返しても人も会社も変わるわけがないと、誰よりも参加した受講者のほうが皆わかっている。美辞麗句は、フォーマルな会議の時だけにして、たまにしかない研修くらいホンネだけのやり取りにしたいものだ。だからこうしたことを繰り返そうとすると、受講者のほうは「もういいよ」となってしまう。かくてこうした誤用により、アクションラーニングも含め「○○カフェ」、「△△ミーティング」「グループ××」も皆役に立たないシロモノとされ、「もうカンベンしてよ、仕事に戻してくれよ」と受講者達に言われることになるのである。

こういうのは手法の優劣でも何でもないのだ。それなのに「『□□ダイアログ』」で失敗したので、今度は『●●ラーニング』がよいのでしょうか」などと質問されても、私も答えようがないのだ。

この迷い道と正反対に、日頃鬱積しマグマになっている「本当の話」をして気持ちがすっきりし、仲間に支援されて問題解決への勇気が湧いたらどれほど素晴らしいだろうか。そう言う時は言うまでもなく成果が達成される確率は飛躍的に高まる。そうした場になるためには、繰り返すが、コーチやファシリテーターの経験と能力に深く依存するのであって、カタカナの手法ごとの少々の違いが影響する部分などそれに比すれば無に等しい。

さて、別に研修に限らず、私たちは、いつも上司や部下と、関係者と、「本当の話」ができる関係を築くことに深く意を用いる必要がある。もし会社中でそう言う人間関係がいたるところに形成されていれば、アクションラーニングも含め「○○カフェ」も何も、もはや必要ないのだ。各人の役割を一心に果たすだけで、必ず組織は発展するはずである。しかしそう簡単にはゆかないから研修やトレーニングをする。せめてトレーニングの時「本当の話」ができなければ、現実世界の日常で「本当の話」は決してできないのだ。私たちには、会社内外に「本当の話」をすぐさまできる人がどれだけいるだろうか。その数はまさしくサラリーマンとしての実力そのものであると私は思っている。



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