その18:「役割になりきること」への付言

(2011.12.18)

アセスメントの手法がお嫌いな同業者にいちばん批判を受けるのが、実はこの部分である。ケーススタディの疑似性とでも呼べばよいか。「ふだんと違う仕事上の役割では、誰しも調子が出にくいのでは」と言うわけだ。しかし、そう批判する方々は、一層深く自分をふり返ることのできる人材開発、啓発の技術、手法をお持ちになって言わないと、あまり実益はないかも知れない。

ただ、時にそう言われるので、私見を答えておきたい。

マネジャー候補やマネジャー、成熟した専門職に問われる行動の本質的側面は、実はどのような職種にあっても同質である。本質を相互啓発するための入り口を共通化するために、多少普段と違う役割を演じるケーススタディを読むことくらい、そんなに目くじらを立てるような話ではないだろう。ビジネススクールの卒業成績席次を競うのではないから、そのケースをどれだけそらんじ、深く分析したかを問題にしているのではないのである。各人なりの背景を持った理解の上に立って、どれだけ効果的な実戦行動が取れたかを、互いに観察し、フィードバックしてくださいとお願いしているのである。前稿で述べたように、ゲームの勝敗は、絶対的なものではない。

そうした本質を浮き彫りにするために、このアセスメントは、切迫した状況と場面をつくりだす。そうしないと、前述したが、素(す)のままの行動が出ないからだ。もたもた考えている時間がない時に人は必ず日常と同じ行動パターンを取る(不必要な時間があると不必要なことを考え形を崩す人も少なくない)。それをありのままにふり返るゆえ、受講者の印象に強く残るのである。そのような切迫性を生じさせるために、ケーススタディの製作、選定、運用において深く意を用いている。

切迫した場面と言うのは(幾度も言うが節目の場面である)、人の素(す)の実力と力量がありありと表れてしまう。研修ではそれを自分の目で見て確かめる。誰だってそんなものは見たくない。見たくないと言う感情を、「ふだんの役割と違う」と言う不満に言い換える人も時にいらっしゃると言うことだ。そう言いたいのは無理もない面もあるから、会社側に立つ方々はその解釈を考えなければならない。

マネジメントが必要でありながら、自分の現時点のマネジメントのありようを見たくないと言う気持ちはもちろん理解できる。が、「見たくない」ことと、「必要でない」でないことは同じではない。そこを取り違えて、ぬり絵をなぞるような研修をいくら行っても自分自身への何らふり返りにはならず、マネジャー、専門職、その候補者の変化のきっかけは決して生まれないだろう。

もっと現実を言えば、日常の役割もまた、職名によって機械的固定的に定まるわけではなく、実に多様である。開発課長だって、技術開発ばかりやっているのではなくて、困った行動をする部下と向き合って話し合い、それを矯正しなくてはならない時もあるだろう。営業課長だからと言って、日々敵と切り結んで戦い、売りさえすればいいと言うことではないだろう。3年後、5年後の顧客や市場がどうなっているかいつも考えていなければならない。一般にマネジメント適性が高い人は、こうした多様な役割を好悪にもとづいて選ばず、その時点で必要な役割にすぐになりきって遂行している。つまりは、日常も研修も、この意味では同じようなものなのだ。

もっとはっきり言う時もある。

「今回はせいぜい研修です。」

と私、つまり研修の先生が言うと、受講者にはきょとんとする人もいる。
 
「現実の方がずっと厳しいでしょう。」
 
それはその通りだと言う表情をする方も少なくない。

「私は何十年もこうした仕事をやっていますが、せいぜい研修で、役割になりきれない、調子が出ないと言っている方で、もっと厳しい現実場面では、恐るべき力量を発揮しているなどと言う例は見たことがありません。」

ただし、以上にはふたつ留意を要する。

第一に、アセッサーや講師が技術未熟で、じょうずにそうした切迫した場面をつくれなかったら、むろん有益な研修にならない。これは普段の役割と同じとか違うとかと言う話ではない。受講者はまのびした時間を過ごすことになってしまう。これは別次元であるとご理解頂けよう。

第二に、ある研修の受講者集団にあっては、経験力量ともにあまりにも抜きんでている人がいると、普段の役割と違うからではなくて、ファイトがわかずに、つまりゆとりをもって、もっとはっきり言えば手抜きをしたまま終わってしまうこともある。まあめったにあることではないが。こういう人に、少しは本気になって他の受講者のお手本となるように、うまく刺激するのもアセッサー、講師の技量のうちである。こうした時の正確な評価と言う面でご心配になる読者がいらっしゃるかも知れない。しかし めったにいないこの種の人を、短い時間の中で見抜けないようでは、プロのアセッサーとは言えない。



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