その30:18の標準マネジメント能力要件…ストレス耐性②マネジメントにおける段階

(2012.5.24)

逆に言えば、人の力量は、つまり経営者やマネジャーの能力は、大きなストレスがかかった時に問われるのだと言ってもよい。引き続き、もう少し程度の高いストレス耐性を述べよう。

ある会社で、アクションラーニングの研修をした時のことだ。ある営業課長の問題は、以前見積もった価格で受注が内定していたが、その後材料費高騰により、正式契約前の案件では、改めて値上げをお願いし、利益を確保しなければならないと言うものだった。こうきれいに言えばなんでもないが、現実はずっと苛烈である。

ある重要顧客に出かけ、この値上げの旨を申し上げた。周囲に数十人は顧客企業の社員が執務していようかと言う大部屋の中の打ち合わせテーブルで、相手の購買担当の部長に、「ふざけるな、このヤロー、どのツラさげてきたんだ」と大声で面罵されたと言う。別段地方の零細企業の応接間での話ではない。どちらもごく普通の上場企業である。

この営業課長は、これを半分にやにやしながら私を含むメンバーに語った。「こんなひどい目にあった私に同情してくれ」と言う態度ではない。つまり葛藤した事態をどう解きほぐすかなかば楽しんでいるのだ。私は感心した。こう言うストレス耐性の強い人はたいてい問題を解決できる。

かつてドコモを立て直した大星公二氏の自伝的著書にも、こうした場面が出てくる。安易にソフトウエアの仕様追加を要求する顧客に、追加費用を請求すると言うと、相手の重役に

「すぐ手を出す乞食の大星。このバカが。てめえなんかだめだ。」

この重役は、相手の業界では名の通った人物らしい。大星氏はむろん逆ギレなどはしないし、むしろ相手の人格力量を見切って楽しんでいる風が見受けられるのである。これもストレス耐性がなせるわざである。

戦争でも互角に布陣して対峙したときには先に動いた方が負ける例が多いと言う。将棋がお好きな方はよくわかるだろう。昭和期最大の将棋指しの故大山康晴名人は、相手の失着をじっと待つのが実に得意だった。必要もないのに先に動いてしまうのは、つまりストレスが少なくとも相手より弱いと言うことだ。

重要な交渉事が煮詰まった時もまた同じである。今は中国大使になられた丹羽宇一郎伊藤忠元社長の著書を読むと、西友からファミリーマートの株を買う時に、相手の和田繁明西武百貨店会長(当時)との価格交渉が折り合わず、互いにひとこともしゃべらなくなった場面が描かれている。「絶対に動くもんか」と丹羽氏は思っていたと書いている。「辛抱しきれずに動いた方が負けだ」と思っていたと言う。結局丹羽氏の望みの額で交渉は妥結した。これなどは高度なストレス耐性の成せる至芸である。

話を転じると、同僚よりも昇進が遅れたと言うような経験をした読者はいるだろうか。そんな時どうして過ごしたろうか。実は歳月が過ぎるほど明らかになるが、人生の分かれ目はむしろそうした時にあるのである。

「なんだっておれが」とごく親しい人や信頼できる人にぐちを聞いてもらうために飲みに行くくらいはよいかもしれない。しかし、これとて、自分からでなく、状況を察知した相手から誘われる方がよい。

もっと大事なことは、昇進遅れが明らかになったあとでも、あなたが以前と同様に、いや、以前以上に熱意と誠実をもって職務に打ち込んでいるかである。周囲の人はそうした様子を決して見逃さない。そのような時、怒りっぽくなったり、ぐちっぽくなっていたら、そこまでゆかなくとも明らかに熱意がうせてしまったら、「ああ、あの人はあそこまでの人だ」と昇進遅れにさらなる追認が加えられ、それがやがて定着してしまうだろう。

しかし、言葉にこう書いても、実際にはそのような態度をとるのはむろん容易ではない。昨日まで親しくしていた人たちがよそよそしくなったり、距離を置いたりし始めるのだから。しかしストレス耐性を日頃から鍛えてあれば何とかできるかも知れない。いや、逆に、これこそストレス耐性、つまりは人間力を鍛え直し向上させるにはまたとない機会なのかも知れない。そのように「雌伏もまた楽し」と感じれば、ストレス耐性は卒業だろう。

ここはパナソニック創業者松下幸之助翁にもう一度学びたい。氏は、第二次大戦後、軍需産業と関係なかったのに財閥解体、公職追放の指令を受け、個人財産も凍結された。つまりこの時点で丸裸になりかかった。丁稚奉公を振り出しにナショナルグループを築いた氏も既にこの時才。現在の年令感覚ではない。このまま追放されれば、のちの日本の家電産業の隆盛は、もっと小ぶりだったか、よほど違った形で現出したに違いない。

この時、むしろ労働組合が公職追放の解除に立ち上がったのは有名な話で、その経緯はストレス耐性とは別に、氏の統率力」や「感受性」がいかにすぐれていたかを物語っている。が、この前後の氏の胸中にあっては、この生涯の難局と立ち向かうストレス耐性が試された。「宇宙根源の法則に乗って素直になることが大切だ」とその後ずっと言い続けた氏の信念は、このとき一層深く涵養されたように見える。

氏は虚弱体質であったことや、その怒りっぽい気質からは、どう見てもストレス耐性の天分が恵まれていたようには見えない。しかし若いころからの克己の鍛練と、運も味方してこの試練を乗り切った後には、誰から見ても大経営者、経営の神様の風貌となっていった。ストレス耐性が、資質ではなく涵養されるものであるよい例である。



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